【言づけ:言付け】と【言づて:言伝】の違い

 伝言/ことづて/ことづけ/メッセージを同じ意味で扱っている知見がありますが、【言づけ:言付け】と【言づて:言伝】の意味が共通するのは、間に介在する媒体が‘切り取られたメッセージ’の場合に限ります。

 <例文>
「ことづて(言伝)をお願いします。」
「ことづけ(言付け)をお願いします。」

 上の二つの文は、誰かに何かをお願いする用法としてはどちらも成立しますが、ほぼ同じ意味になる場合は、‘切り取られたメッセージ’を扱っているからです。【言付け】は、贈り物を預けたり、代理行為を頼んだりする場合にも使えますので、間に介在するものは、‘切り取られたメッセージ’だけではないのです。


 【言づけ:言付け】と【言づて:言伝】の違いはそれだけではありません。そもそも、お願いできる内容が異なっているのです。

 【言づて:言伝】は、「伝言」とも書き換え可能です。ただ取次ぎするだけで、お願いできる内容は「言葉」だけです。

 【言づけ:言付け】は、『託』とも書き、「要求を求めて思いを託す取次」、「物に思いを託す贈り物」、「別人に任せて思いを託す代行」など、言葉に思いを託して、「言葉+α」の‘頼みごと’をお願いできます。「付言」は、「加えたもの」という意味が強いので、そのまま書き換えは難しい言葉です。

 因みに、「付ける」には、「仕付ける」「申し付ける」などの‘意向を遣わす’意味が込められます。


 このように【言づて:言伝】と【言づけ:言付け】は、コミュニケーションの用法は近いが、間に介在させる媒体には大きな違いがあります。【言づて:言伝】は、会話の補助として言葉そのままを渡すだけのコミュニケーションですが、【言づけ:言付け】は、そのまま言葉を遣わすだけではなく、「もの」や「こと」に思いを託して、‘頼みごと’を表現できるコミュニケーションなのです。


 マルチメディアの発展によって、コミュニケーションに介在するメディアが<表現メディア>と<伝達メディア>に分けられるようになりました。

<表現メディア>(文字、画像、音声、映像など)
<伝達メディア>(紙、口コミ、電話、パッケージ、ネットワークなど)


 【言づて:言伝】は、不足する意思情報を伝えるだけで、思いを託す表現ではありません。
 
 【言づけ:言付け】は、思いを託す<表現メディア>を駆使して、より幅広い付き合いを可能にします。【言づけ(付)】コミュニケーションは、マルチメディアによって可能になった顔の見えない間接コミュニケーションです。


 間に介在するメディアにとりわけ思いを託す表現であり、相手の表情を見ながら発信する“話し言葉”とは違い、文章によって自己完結した思いを表現する“書き言葉”とも違います。

 相手の表情を確認する機会が少ない間接的コミュニケーションでは、お互いの感情が上手く伝わらず、意図を通わせることが難しくなります。表情が確認できない相手とのコミュニケーションとして、“話し言葉”でもない、“書き言葉”でもない、新しいメディア表現【言づけ】の研究が必要ではないでしょうか。