『付託』と『負託』の違い

 【言付け】や「託言」を理解するために、『託す』と『任す』の違いについて説明しましたが、「託す」と「任す」を兼ねる『負託』と、【言付け】の〝付〟を合成する『付託』の違いについて注目せざるを得ません。同音異義語である『付託』と『負託』は、使い分けにおいて混乱があるほど、理解が広まっていないようです。


 『付託』の〝付〟は、「つける」「つかう」に通じます。使役的であり、要求する側の表現であり、要求を受ける側は‘受託’です。‘受託’は、「委託」に対しても使われ、「受任」と「委任」の関係にも通じます。「委ねる」の〝委〟は、「付ける」の〝付〟と同じ位相にある言葉だと言えるでしょう。


 一方、『負託』の〝負〟は、「まかされる」「おわされる」「こうむる」に通じます。要求を被る(負う)側からの表現です。訓読みが同じであっても、「負かす」と「任す」は全く別の意味になります。

 『付託』と『負託』は、託している仲介の違いがあります。『付託』は、託しているものが具体的な使役です。『負託』は、託しているものが具体的ではなく、負けてしまうだけの被役(負役)です。「させる−させられる」内容が明示ではなく、双方向か一方的かの違いがあります。『負託』と言う表現は、中国語にはないようです。卑屈な人間に「託す」のは良い印象がないのが理由だと推測されます。


 「ふたくを受ける」や「ふたくに応える」という慣用句がありますが、違いが非常に判りにくくなっています。具体的な内容がなくても、とにかく“期待”を一身にいただくという日本的な受身表現が『負託』であり、具体的に“要求”を遣り取りする受身表現が『付託』です。

 〇「付託を受ける」 〇「付託に応える」  → 託せられる“要求”を扱う(使役)
 〇「負託を受ける」 〇「負託に応える」  → 託される“期待”を扱う(受身)  
 

 “要求”を扱う『付託』と“期待”を扱う『負託』の違いは、託す中身によっても分別されます。『負託』は、依頼内容よりも信頼状況による関係であり、『付託』は、‘受託’する依頼内容に注目するものであり、処理や提案を託す、いわゆる【言付け】なのです。


 端的に言えば、‘コト’ありきが『付託』、‘ヒト’ありきが『負託』。または、‘受託’を伴うのが『付託』、それがないのが『負託』という仕分けになります。

 【言付け】のような簡潔なものではなく、よりまとめられた内容の意見を託すのが『付託』になります。とりあえず、【言付け】の方が『付託』に近いと理解すれば、憶えやすいかと思います(笑)