『申し付け』と『申し伝え』は謙譲語ではなく丁寧語

 「申し付け」と「申し伝え」の違いは、「言い付け」と「言い伝え」の違いに相関した敬語表現になります。『申す』は一般に謙譲語とされていますが、高貴ではない人間の意思表示に過ぎないと思います。主語に囚われた使い分けの発想であり、欧米の主語ありきの言語論に毒されています。

 古い時代の会話では、指令を出す上位の人と、指令を受ける下位の間には、伝令役のような仲介する人がいたのかもしれません。仲介する人の言葉とすれば、『申す』は全て謙譲語という法則が成り立ちますが、今日ではそれは不可能です。よって、『申す』を謙譲語とする仕分けはもはや間違いだと思います。


 とりあえず、現代語の『申す』を丁寧語と位置づけて進めていきます。謙譲語の「申し上げる」以外は、『申し付ける』、『申し伝える』、「申し出る」、「申し受ける」、「申し渡す」、「申し合わせる」などを丁寧語としてここでは扱います。

            <丁寧語>
 「言い付けます」=>「申し付けます」
 「言い伝えます」=>「申し伝えます」

 「申し付けください」(命令をください)
 「申し伝えください」(取次ぎをください) 

 
 『申し付け』は、「用事を言い付けること」であり、上位者と交わす命令を意味します。‘頼みごと’を遣わす【言付け】の敬語としても相関する。

 『申し伝え』は、「取次ぎいたすこと」であり、受けた内容を上位者に取り次ぐことを意味します。伝言の敬語としても相関する。


 「申し付ける」について、尊敬語の「おっしゃる」を使用すべきという意見がありますが、仰せのとおりでは何でもありで、対話する内容が定まっていない印象があります。命令する関係にある場合は、「申し付け」が正しい表現だと私は思います。