ネット時代に、教育者の独善は生き残れない

 恒例にの内田樹氏の記事「教育基本条例再論(しつこいけど)【内田樹の研究室】」を扱います。ブログテーマとは離れるばかりですが、真逆の考え方だから、つい反応してしまいます(笑)

メディアでも、教育基本条例の区々たる条文についての反論は詳しく紹介されるが、私のようにこの条例を起草した人間の教育観(「学校は市場に安くて使いでのある人材を供給する工場である」)そのものに反対する立場は紹介されることがない。それはメディア自身がそのような教育観に同意しているからである。いや、いまさら否定しても無駄である。

「大学淘汰」の状況をおもしろおかしく報道した新聞がどれほど堂々と「競争力のない教育機関は市場から退場すべきだ」と語っていたか、私は忘れていない。メディアは「競争力のない企業は市場から退場すべきだ」というビジネスルールをそのまま学校に適用して、「競争力のない教育機関は市場から退場すべきだ」と書いた。この能力主義的命題が実は「競争力のない子供は市場から退場すべきだ」という命題をコロラリーとして導くことにメディアの人々は気づいていなかったのだろうか(気づいていなかったのだと思う)。

そもそもメディアで発言している人々のほとんど全部は自分のことを「社会的成功者」だと思っている。彼らは「成功者とみなされている人々は偶然の僥倖によってたまたまその地位にいるにすぎない」という解釈よりも、「際だった才能をもっている人間は選択的に成功を収める」という解釈を採用する傾向にある。そのような自己理解からは「われわれの社会は能力主義的に構造化されており、それは端的に『よいこと』である。じゃんじゃんやればよろし」という社会理解が導出されるに決まっている。つまり、私たちの国では、能力主義的な社会の再編が失敗し、その破局的影響があらゆる分野に拡大しているにもかかわらず、そのことを指摘する人間が「どこにもいない」という痛ましい事態が現出しているのである。

 とりあえず、学問的意欲と能力主義は関係ないので、大学淘汰の問題?は置いといて、教育界の能力主義について考えます。結論から言うと、教育界の能力主義は当然であり、グローバル経済に関係なく、日本社会の要求だから素直に受け入れるべきものだと思います。

 教育への政治介入問題でいつも腹立たしいのは、教師達自らが日の丸君が代反対などの政治扇動で混乱させておきながら、対する行政の政治介入に執拗に反対する態度があることです。まるで、自分が支持するイデオロギーを刷り込むことが、教師としての生きがいとばかりに、偏向教育を行う教師がいるのは、教育界の退廃以外の何者でもありません。かと言って、教育界の能力主義で、教育界の退廃を改善しようと思っているわけではなく、単に社会のニーズに応えるサービス業という形こそが教育界の理想だと考えるのが私の立場です。

 戦前教育の反省は、民主主義を教えなかったこと以外には何があるのでしょうか。民主主義さえ教えれば、その他の思想教育は何でもありなはずです。逆に言えば、民主主義以外の思想教育は学校に求められていないだと思います。学校教育で求められるのは、団体行動やコミュニケーション能力などの躾につながるものであって、精神年齢的に分かりにくい抽象的な思想教育は功能がありません。

 ヒューマニズムなどの思想が大事だと思うのであれば、私立の学校でやればいい話です。自分の人生を振り返っても、学校での思想教育が重要だとは全く思いません。ネット社会の現代において、教師が政治的暴走を抑止するかのような論理は非現実的です。教育者が社会の良心であるかのような論理には、怠慢や傲慢さが潜んでいるとしか感じ取れません。

 教師が聖職者である役割は完全に終わったのだと思います。教師が、子供に堂々と教えるのために必要なのは、社会が求める時代的要求(ニーズ)に忠実に応える態度です。それは、時代が求める社会像を根拠にした指導であって、独善的な理想を根拠にした道徳的な押し付け指導ではありません。教師は、自分の理想ではなく、社会の要請に応えて仕事をするサービス業でなければならないのです。

 そして、サービス業である教師に求められるのは、市場原理で評価できるリーダーシップ能力や講義能力であるはずです。教師の徳性は、聖人ぶりではなく普通の人格ぶりであるべきで、一言で周りを黙らせるような、役者気取りの独善は必要ありません。一般のビジネスマン同様に、自分の考えは抑制しなければならないのであって、発揮するべきは市場原理で評価されうる能力なはずです。

 子供が、理想として学ぶ対象は、近くにいる学校の教師よりも、自ら発見する遠くの偉人であることが多いはずです。つまり、政治介入を恐れるような思想教育自体が不要なものでしかないのです。知識人の権威さえも危うくするネット時代において、教育者の独善を語るのは滑稽でしかありません。。。